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陰陽の調和と和合で生成発展 (週刊ひとよし掲載)
 世の中の森羅万象は、天地、山川、男女、表裏、始終、プラスマイナスなど陰陽の二元素から成り立っています。これらはすべて相反する両極のものですが、これが調和し和合することで生産をはじめ生成発展は成就すると古来より考えられて来ました。
 このたびは、国宝青井阿蘇神社の社殿を陰陽の調和と和合という観点からご案内いたします。陰陽の表記ですが、わかりやすく解説するために文中には陽を先としたところもあります。
 先ず、社殿は黒色を基調に彩色されていますが、組物や柱の面取り部分などには赤色が施してあります。黒色は北の方角や水を、赤色は南や火を表します。   
 楼門には人吉様式と名付けられた喜怒哀楽を表す四方軒下の神面がございますが、それぞれが口を開けた阿、閉じた吽の一対からなっています。また弓矢を手に門番をする武官像の随身(ずいしん)とその脇の狛犬も、阿吽です。そして西側蛙股(かえるまた)の彫刻を見ますとそこには鯉が、東側は馬が題材になっています。鯉は水気、馬は午とも表現できますので火気とみて取れ、その数は鯉が六匹の偶数、馬が五匹の奇数で陰陽です。 
 次に拝殿。向かって左側の部屋を神楽殿といいます。正面神鏡の額は、右が太陽、左が月です。天井には中心から八方に向けしめ縄が張られていますが、それぞれが二本づつの縄です。一方は右ないの普通の縄、もう一方は垂(たれ)のある左ないのしめ縄本来の形で、陰陽が絡み合っています。舞台装飾でみると、前方左右に二つの円盤が吊り下げてありますが、これも太陽と月を表します。「三笠(みかさ)」という演目は二人の舞手がこの太陽と月を絡ませ和合させながら舞います。また他に類例がないとされる「大小(だいしょう)」という演目は、その名前自体が陰陽で、衣装の烏帽子(えぼし)には太陽と月の文様が施され、陰と陽を担当する二人の舞手は互いに絡み合い始終激しい動作で舞います。
 次に幣殿。入口の二十四孝物語の題材は、右側に女性が主役の「唐夫人姑に乳を怠らず」、左側に男性が主役の「大瞬孝を感じて天を動かす」です。また正面一番奥の鳳凰の彫刻は雌雄一対、壁に懸けられた神面は阿吽の形相、そして殿内全体には植物と動物の彫刻が施されています。
 次に廊。阿吽の形相をした一対の龍の彫刻があります。向かって右は剣を、左は梵鐘を巻きこんでいます。剣は不動明王がお持ちですので不動を意味します。梵鐘は除夜の鐘を衝き煩悩(ぼんのう)を祓い解脱(げだつ)するといますが、解脱とは束縛から解き放たれ自由になるという意味で、不動と自由の一対です。
 次に本殿。神さまが鎮まる一番大切な社殿です。本殿の扉を御扉(みとびら)といいますが、その表面の左右には真言密教の御紋の一つである輪宝(りんぽう)の金具が設えてあります。この扉を開くと内側には神社の社紋である鷹の羽が描かれ、扉の表裏で仏と神を表します。また屋根部の左右側面にはそれぞれ昇龍と降龍の彫刻が施されそれぞれが陰陽一対です。
 次に社殿基壇の石組み。楼門、廊、本殿はごつごつした山石、拝殿、幣殿は丸っこい川石が使用され、山と川の一対です。
 一連の社殿は材料を吟味し彩色や彫刻を施し贅をつくして完成させられているにもかかわらず、幣殿の一部には意図的と思える未完成の部分が存在します。これは完成させてしまえばあとは朽ち行くのみだからというもので、完成と未完成の表現です。他にも探せばまだまだ出て来るかもしれません。
 神社は、天地森羅万象の恩恵、すなわち神さまの恵みと過去における祖先たちの恩や徳に感謝するとともに、現在の子孫繁栄や五穀豊穣など世の中の生成発展を願い、未来のために調和を図り平和な世の中を持続させて行くための地域の重要な施設です。これまで一千二百年以上毎日欠かさず祈りと感謝の真心が捧げ続けられて来ました。冒頭に記したように、世の中の相反する陰陽を社殿の中に調和させることで永遠の生成発展を願い造営されたのが現在の青井阿蘇神社の社殿なのです。
 特筆すべきは、およそ四百年前にこの五棟一連の社殿群を造営させたのは、相良二十代当主の長毎(ながつね)とその重臣相良清兵衛。完成時の棟札に記された大檀那大梵天王(だいぼんてんのう)と大願主帝釈天王(たいしゃくてんのう)の御名。大梵天王とは人間社会の主宰仏、帝釈天王とは須弥山(しゅみせん)に住み東方を守護し梵天王とともに仏法を守護する仏とされています。時代は戦国乱世から江戸幕府の世へと移行していました。青井阿蘇神社の社殿造営を期とし、二人は長毎を大梵天王、清兵衛を帝釈天王にたとえながら、新しい国造りを目指し歩み始めたのではないでしょうか。
 平成二十四壬辰歳の新春を寿ぎ奉り、皆さま方の更なるご健康とご多幸とともに世の中の生成発展を、陰陽の調和と和合で造営された青井阿蘇神社大前よりお祈り申し上げます。

| - | 02:08 PM | comments (0) | trackback (1) |
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